小児外科について
小児期(15歳以下)の外科的疾患を扱う診療科です。小児外科で特に多い疾患は、新生児・乳児期では先天性奇形(胃腸の消化器系、肺・気管の呼吸器系、鼠径ヘルニア、体表奇形など)、肝胆道系疾患(胆道閉鎖症、先天性胆道拡張症など)、固形腫瘍(神経芽腫、Wilms腫瘍、肝芽腫など)、幼児期にかけて臍ヘルニア(でべそ)、鼠径ヘルニア(脱腸)、停留精巣(陰嚢に睾丸が降りてきていない状態)があり、学童期以降になると急性虫垂炎など成人にも見られるような疾患が多くなっています。
また、手術だけでなく、その前段階で手術の必要性を正確に判断することも小児外科の重要な役割です。健診などで病気のサインがないか診察させて頂きます。また、気になる症状がございましたらお気軽にご相談ください。
臍ヘルニア(でべそ)
赤ちゃんのおへそ部分が膨らんでいる状態で、新生児の20〜25%で見られます。
胎児は、お母さんのお腹の中で臍帯(へその緒)を通じて栄養や酸素を受け取っています。誕生後、へその緒は、尿膜管や臍動静脈などの閉鎖吸収が起こると同時に、自然に脱落し、横筋筋膜で閉鎖されます(臍輪)。この過程で障害が生じると、筋膜の欠損部で臍輪が完全に閉じず、臍輪で腹膜が突出し、そこから腸の一部が皮下に脱出することで膨らんでいる状態が臍ヘルニアです。
臍ヘルニアは80%が1年以内に治り、2年で90%が治るとされています。ただし、自然には治らないケースがあり、治った場合も大きく膨らんでいた皮膚のたるみが残ってしまう場合もあります。臍ヘルニアがある場合、早期に圧迫療法を行うことで自然に治る可能性が高くなり、皮膚のたるみも残りにくくなります。圧迫療法は、脱出した腸管を腹腔内に収おさめたうえで、脱出してこないように綿球で臍輪を圧迫して塞ぎ、テープなどで固定することにより、腸管が脱出しない環境を保持します。当院で治療を行なっており、ご自宅での管理についてもご説明させて頂きます。自然治癒が期待される2歳を迎えても、ご家族やご本人が気になる、将来的に気になるだろうと思われる場合には、手術の適応について考慮されますので、専門施設へご紹介いたします。
なお、鼠径ヘルニアでは、脱出した腸管が、元に戻らないという嵌頓(カントン)状態が続くことにより、血流障害から腸管壊死に至るリスクを配慮する必要がありますが、臍ヘルニアは嵌頓リスクはほとんど無いと言われております。基本的には心配不要ですが、圧迫療法中は臍の状態が直接見えないので、不機嫌が続いたり、患部の状態がいつもと異なる時には、速やかに受診するようにしましょう。
鼠径ヘルニア(脱腸)
鼠径部(そけいぶ)は、大腿(太もも)の付け根、左右の下腹部です。小児の鼠径ヘルニアのほとんどは、本来自然閉鎖・退縮する腹膜鞘状突起が開存することによって、腹腔内の臓器(主に腸管、女児では卵巣・卵管のこともある)が腹腔の外である皮下に脱出した状態となります。
新生児の20人に1人が発症する頻度の高い疾患ですが、成長とともに啼泣時の腹圧が上昇し、乳児期(場合によっては幼児期〜学童期)に発症することもあります乳児健診で気付かれる場合もありますが、保護者の方が赤ちゃんの足の付け根の膨らみに気付いてご相談にお越しになるケースもあります。お子さんが大きいと、自分で申告してくれたり、「痛い」と言って気づかれることもありますが、多くの場合は、痛みはないかごく弱いです。
日常生活に支障を来すことは少ない一方で、腸管が脱出したままになると次第に戻りにくくなり、最終的には血流を阻害して腸管壊死を起こす嵌頓(カントン)のリスクがあります。嵌頓にすぐ気づいて手術が行われれば問題はありませんが、気付かれないまま放置すると開腹手術による腸管切除といった大手術が必要になります。そのため、鼠径ヘルニアは放置せず、計画的な外科治療が必要です。手術は、開存した腹膜鞘状突起を腹膜にごく近い部位で結紮して閉鎖する「高位結紮(行為結紮)術」が行われます。全身リスクを考慮の上、ごく小さな傷のみで実施される腹腔鏡手術が適応されることが多いです。当院では、診察の上、速やかに専門施設へご紹介をさせて頂きます。
停留精巣・移動性精巣
精巣は、胎児期に腹腔内に存在し、精巣導帯に誘導されて陰嚢底部まで下降し、固定されます。この下降が途中で止まってしまい、精巣が陰嚢の中に降りてきておらず、腹腔内や鼠径部(鼠径管内)に留まったままの状態を「停留精巣」、陰嚢まで至ったものの精巣導帯で固定されずに陰嚢内と鼠径部を行ったり来たりする状態を「移動性精巣」といいます。男児の先天的異常では最も頻度が高いですが、生後6か月までは自然下降が期待でき、1歳を超えて停留精巣が残るのは1%程度の確率とされています。なお、精巣挙筋(刺激に対する反射で精巣を挙上させる)の過緊張によって精巣が上下するものは幼児学童期に多く見られ、血中テストステロン(男性ホルモン)の上昇に伴い、思春期直前には陰嚢内に落ち着きます。
精巣は、その機能の発育のために低温度環境が必要です(陰嚢内はほぼ33℃)が、鼠径部(鼠径管内)や腹腔内ではそれより高温の状態にあり、そのまま放置されると進行性に障害され、妊孕率が低下し男性不妊症につながるリスクがあり、悪性腫瘍発生率が増加する(ない人の2〜10倍)と言われています。また、固定が不安定であることは、精巣捻転のリスクにもなります。1歳以上になっても停留精巣が続く場合は手術を検討しますが、近年、より早期の手術が望ましいとされ、手術のタイミングは施設により多少異なります。
当院では、乳児健診や診察の際に、鼠径部から陰嚢にかけて精巣を触知して確認します。ご家庭では、おむつ交換や入浴時に陰嚢内に精巣が触れるか、優しく確認して見てください。泣いていたり、興奮していると挙睾筋反射によって精巣が挙上しているかもしれませんので、入浴時やリラックスしている時に確認してみましょう。移動性精巣の場合は早期治療の必要はありませんが、判断が難しいケースもありますので、お気軽にご相談ください。
肛門周囲膿瘍
肛門部に炎症が起き、膿瘍を形成したもので、外観上、赤いおできです。触れると痛がり、黄色い白黄色の膿が出ることもあります。赤ちゃんの肛門周囲膿瘍は時間経過によって自然に治ることも多いですが、大きく腫れて皮下の膿が確認できる場合には、切開による膿の排出が必要な場合があります。主に、下痢症やおむつかぶれにより起きることが多いですが、痔瘻が潜在していることもあり、後者の場合は痔瘻の治療が必要です。
治療は、下痢があれば整腸剤などで便性を整え、肛門周囲を清潔に保つことをきほんとし、膿瘍に対しては切開・排膿を行います。有効な漢方治療もあり、処置と合わせて内服します。