子どもの夜尿症について
乳児は排尿リズムが発達途中で、おむつをしていますが当然毎晩おねしょをしている状態です。成長するにつれて排尿リズムが整い、排尿をコントロールできるようになっていきますが、膀胱のサイズや尿量、睡眠の深さなどによって睡眠中のコントロールがうまくできず、おねしょをすることがあります。
5歳以上で、1ヶ月1回以上のおねしょがある状態が3ヶ月以上続いた場合、夜尿症とされます。膀胱などの泌尿器の発達は個人差がありますので、夜尿症は年齢が上がることで自然に治るケースが多いですが、稀に成人後もおねしょが残るケースが存在します。
子どものおねしょは保護者の方にも様々なストレスがかかります。また、本人にとっても学校やスポーツなどで宿泊する機会がある年齢になるとコンプレックスとなる可能性があり、穏やかに、かつ、的確に見守りつつ支援することが大切です。2009年の報告によると、生活指導をはじめとする治療介入によって治癒率を2~3倍高めることができ、治癒までの期間の短縮と、1年後の治癒率が50%(介入しない場合は10~15%)ということがわかりました。夜尿症は育て方やしつけの問題でなく、ましてやご本人が悪い訳でもありません。適切な治療で改善が期待できる症状です。子どものおねしょに関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。
子どもの夜尿症の原因
夜尿症は、膀胱が小さいく容量が少ない、夜間尿量が多いと、夜尿症になりやすい傾向があります。その原因には、就寝中の抗利尿ホルモンADH(antidiuretic hormone)の分泌低下、排尿筋過活動DO(detrusor overactivity夜間の抑制がうまく働かない)、緊張やストレス、寒さなどによる膀胱の収縮があげられます。
また、眠りが深いと尿意で目が覚めず、おねしょをした感触があっても目を覚まさないことがあります(覚醒閾値の上昇)。
発達の遅れがある方では、排尿筋過活動DOと脳波所見が、発達とともに改善し、睡眠中の尿意と膀胱収縮の抑制が可能になることが示されました。
他にも、両親が夜尿症だった場合は発症しやすい傾向があり(片親にある時は5~7倍、両親にある時は約11倍)、遺伝の関与も指摘されています。
夜尿をきたす器質的疾患についても、考慮する必要があります。治療が必要な疾患や発達の問題が隠れていないかを確かめることも重要です。昼間の失禁、便秘、便失禁、排尿障害などを伴う場合には、経過観察しつつ精査が必要かを判断します。
一旦夜尿がなくなっていた(6ヶ月以上)のに再び始まる場合は二次性夜尿症とされ、精神的ストレスや精神疾患の可能性、基礎疾患を有する可能性などの配慮が必要です。
夜尿症の治療
夜尿症は、生活指導general lifestyle advice、行動療法motivational therapy、薬物療法medication、アラーム療法alarm therapy、その他の治療(漢方薬など)の必要性を年齢や頻度などにより判断し、適切なタイミングで介入します。
夜尿の頻度 | |||
---|---|---|---|
+昼間尿失禁・便失禁 | ほぼ毎晩 | 数回/週 | |
未就学児(5歳) |
要受診 | 経過観察・生活指導 | 経過観察・生活指導 |
小学1・2年生 | 要受診 |
受診検討 |
経過観察・生活指導 |
小学3年生以降 | 要受診 | 要受診 | 受診検討 |
西﨑直人著『夜尿症診療リアルメソッド』より
生活指導general lifestyle advice
ガイドラインでも、年齢を問わず、一般的な生活指導は推奨されるとされています。また、重度でない発達障がいのお子様にも禁忌ではない(行ってもよい)とされています。
国際小児尿禁制学会International children’s Continence Society(ICCS)をもとに、以下のことに気をつけましょう。
- 夜尿は、お子様の過ちによるものではなく、罰を与える方法で治療をすべきではないことを、お子様とその保護者(養育者)がよく理解すること。
- 家族と夜尿記録をつける。
- 定時の排尿を習慣とする。(就寝前・起床時は必須。学校で最低2回、その後は下校後、夕食時、など。)
- 洋式トイレに座って排尿する際は、骨盤底筋をリラックスさせる体位をとるようにする。
- 夜間多尿がある場合は、夕方以降の水分とタンパクなどの摂取を減らすべきである(コップ1杯程度を目安とする)。
- 水分とタンパクなどは、日中、特に午前中から昼過ぎに十分摂取するようにする。
- 便秘があれば治療する。
- 保護者が夜間にお子様を起こして排尿させる習慣は必要ない。(アラーム療法で排尿したタイミングで覚醒させてトイレに行くことは悪くない。)
- 寝ている時に寒くならないように気を付ける。
薬物療法medication
抗利尿ホルモン薬antidiuretic hormon(ADH) ミニリンメルト®️
6歳以上のお子様に対して、睡眠時に尿を濃縮して尿量を減らす抗利尿ホルモン薬による治療を行います。夜間失禁後の早朝尿の比重1.022以下、浸透圧800mOsm/L以下が目安になりますが、欧米ではそれに限らず処方されます。日本でも、この尿の条件に該当しないものの内服を継続したことにより、改善傾向となることが報告されています。
アラーム療法alarm therapy
パンツまたはオムツパッドにセンサーをつけます。おねしょで濡れると、このセンサーが感知してアラームが鳴ります。おねしょをした瞬間をアラームで認識させることで睡眠中に尿保持力のアップや夜間尿量の減少効果が期待できます。
アラーム療法は、お子様がご自分で「おねしょを治したい」としっかり自覚していることで効果が期待できます。副作用がなく、再発率も低い治療ですが、お子様の気持ちや保護者の優しいサポートが不可欠ですので、医師としっかりコミュニケーションをとって開始時期を慎重に図ることが重要です。
その他の治療other therapy
漢方や抗コリン薬などを使用することもあります。
抗コリン薬は、膀胱の緊張をリラックスさせることから睡眠中の膀胱容量を増大させることにより有効である可能性が示唆されています。成人では一般的に処方されていますが、小児では薬物治療やアラーム療法が奏功しないお子様に併用されることが多いです。
特に疾患などの原因がない夜尿症の場合も、お子様が悪いわけでもなければ、保護者様の育て方やしつけで治せるものでもありません。
大切なのは、
【起こさない】・【怒らない】・【焦らない】・【叱らない】・【比べない】・【褒める】、
ということです。
保護者様が焦ったり怒ったりするのは禁物です。また、子どもではなく、保護者様がご自分を責めてしまうというのも、子どもは敏感に感じ取り、大きなストレスになってしまいます。
頑張ったらしっかり褒め、ゆったりとした気持ちで接してください。