喘息は、気道の慢性炎症を特徴とし、発作性に起こる気道狭窄によって、咳嗽(がいそう=咳)、呼気性喘鳴(息を吐く時のぜいぜい音)、呼吸困難を繰り返す疾患です。6歳までに気管支喘息の約80〜90%が発症するとされ、乳幼児期、発症時に速やかに早期介入することが、その後の病態の進展に影響するので大切です。
発作が起こらないことを目標にした治療を実施します
喘息は近年、薬物療法が大きく進歩し、全体に軽症化している傾向があり、2017年には小児喘息死はゼロになりました。実際に、頻繁な喘息発作で救急外来の受診を繰り返すケースや入院となるケースは大幅に減少しました。
ただし、軽い喘息のある状態が長期間続いている子どもは多く、治りきらないまま大人になってしまうケースが増加しています。喘息は大人になったら治る病気と誤解されることも多いですが、治しきらずに大人になってしまうと、難治性喘息を発症する危険性があります。7歳時点での喘息重症度が高いほど42歳時点でも喘息である割合が高く、50歳時点で慢性閉塞性肺疾患になるリスクは小児期に喘息のなかった症例に比べて、小児重症喘息で32倍、軽・中等症では10倍であることが報告されています。
さらに、小児喘息は、加齢による肺機能低下の大きな原因でもあるとされ、将来のリスク回避のために、治療が不十分にならないように注意が必要です。
喘息は、発作が起こらないゼロレベルにすることが治療のゴールです。発作で起こった症状を改善させるだけでなく、発作を起こさせないことを目指した治療を実施、継続します。
小児喘息のメカニズム
喘息は一時的に起こる急性の喘息発作だけでなく、発作がない間も少しずつ炎症が進行する疾患です。喘息症状(咳嗽、呼気性喘鳴、呼吸困難)は、遺伝因子(家族歴,
遺伝子保有)と環境因子(アレルゲン、感染、受動喫煙、大気汚染)によって気道炎症が続き、過敏になった気道が何らかの刺激(アレルゲン、感染、受動喫煙、大気汚染、気候、運動、心理要因など)を受けることによって、気道周囲の筋肉(気管支平滑筋)が収縮して気道が狭窄し、気道粘膜に腫れ(気道粘膜浮腫)や痰が生じる(気道分泌亢進)ことで空気の流れが妨げられ(気流制限)ることで生じます。激しい発作出現するとが注目されやすいですが、根本的な原因は慢性的に進行する気道の炎症であり、症状が目立たない状態(たまに咳がある、など)でも炎症をしっかり治すことによって、発作を起こさないゼロレベルが可能になります。
気管支喘息の原因
小児の気管支喘息は、ガイドラインの普及や吸入ステロイド薬導入により治療・予後が改善されていますが、薬物療法のみならず、喘息の原因となる危険因子について理解をし、対策することが大切です。
危険因子には、喘息の発症に関連する発症因子と、発作の誘因となる増悪因子とがあり、それぞれ個体因子(そのお子様自身の体質的な特徴)と環境因子があります。環境因子は、発症因子かつ増悪因子と共通しているものが多いです。
喘息発症に関わる個体因子
- 家族歴、性差
両親に喘息がある場合、ない場合の約3〜5倍
一卵性双生児は二卵性双生児より二人とも喘息を発症する頻度が高い
男児は女児より気道が狭胃などの特徴から、小児期は男児に多く見られる
思春期に成長して胸腔拡大するに伴い、10歳以降で性差がなくなる - 素因(アレルギー素因、気道過敏性、早産児・低出生体重児・肥満)
喘息の半数以上がアレルギー素因を持っている
母の喫煙が早産児・低出生体重児のリスクとなり、喘息発症のリスクにもなる - 遺伝子
喘息の発症に関与する遺伝子が複数わかっている
喘息発症・増悪に関わる環境因子
- アレルゲン
多くの喘息患者はダニアレルギー陽性
有毛動物のペット、花粉も吸入アレルゲンとなる - 呼吸器感染症(ウィルス、肺炎マイコプラズマ・肺炎クラミジア・百日咳など)
代表的なのはRSウィルス。ヒトメタニューモウィルス、ライノウィルスなども喘息発症のリスクになる
マイコプラズマや百日咳などの細菌は増悪リスクとして注意が必要 - 室内空気、大気汚染物質(受動喫煙・能動喫煙、PM2.5、煙・自動車の排気ガス・臭気など、マイクロバイオーム細菌叢)
- その他(気象、運動・過換気、栄養、心因、薬物、月経、抗菌薬、母胎への薬物投与
※一般社団法人日本小児アレルギー学会作成 ガイドライン2020まとめより
気管支喘息が疑われる症状
咳嗽
風邪をひいているわけでもないのに咳だけが出る、特に夜になると咳が増えるという特徴があります。炭も増えますが、比較的空咳が続くのが特徴的です。
呼気性喘鳴
ヒューヒューゼイゼイという苦しそうな呼吸音や激しい咳込みを繰り返す、吸う時よりも吐く時の方が苦しそうな様子がある場合は気管支喘息が疑われるためお早めの受診が必要です。
呼吸困難
狭くなった気管支に空気を送り込んだり吐き出したりするため、努力呼吸を認めることがあります。
鎖骨上の窪みが凹んだり、肋骨間の皮膚が陰圧で引き込まれるような呼吸の仕方、シーソー呼吸の時は、速やかに受診するようにしましょう。
また、横になると咳が増えたり苦しいため、坐位(座ったまま)だと比較的眠れるといった傾向があります。
喘息発作を起こしやすいタイミング
- 真夜中や明け方
- 季節の変わり目、花粉の季節
- 運動時
- 台風などで気圧の変化がある時 など
気管支喘息の治療
喘息の治療は、薬物治療と環境整備によって行われます。薬物治療は、発作時に行う治療と、発作を起こさないための普段の治療に分けられます。起こってしまった発作の治療には発作治療薬が使用され、喘息発作を起こさないための治療には長期管理薬が使われます。
発作時の治療(リリーバー)
気管支を取り巻く筋肉の収縮をゆるめる短時間作用性β2気管支拡張剤SABA(内服薬・吸入薬)を使用します。十分な効果を得られない場合は、ステロイド内服薬や点滴などを行うことがあります。こうした治療は症状改善の効果が高いですが、発作が起こるたびに行うことが必要です。発作を繰り返すことは不可逆的な気道リモデリングにつながることになり、将来の肺機能への影響が危惧されます。普段から発作を起こりにくくする治療を継続することにより、炎症や気道過敏症を鎮静した状態を維持できるように、しっかりと治療を行いましょう。
発作を起こしにくくする治療(コントローラー)
症状の頻度と程度から重症度を判断し、重症度に応じた治療ステップから開始します。
発作を起こしにくくする治療の目的は、気管支の慢性的な炎症をコントロールすることです。必要最低限の薬を使って喘息無症状の状態を維持し、炎症を解消して気道過敏性を抑えます。この治療法は日本では「ゼロレベル作戦」、海外では早期介入を意味する「アーリー・インターベンション」と呼ばれています。
ロイコトリエン受容体拮抗薬LTRA(キプレス®️、オノン®️)の内服、ステロイド吸入薬ICS、吸入ステロイド薬/長時間作用性吸入β2刺激薬配合剤ICS/LABAの選択肢があります。
乳幼児では自覚症状を正確に訴えることができない上、内服や吸入などの治療を嫌がることもあるので、保護者様の喘息という疾患についてのご理解がとても重要になります。自分で理解ができる年齢のお子様には、年齢に応じた言葉で、ご本人にも治療の重要性を伝えながら治療を行います。
さらに、これらの薬剤でもコントロールがつかない場合には、生物学的製剤の抗IgE抗体オマリズマブ(ゾレア®️)や抗IL-4受容体α鎖抗体デュピルマブ(デュピクセント®️)、抗IL-5抗体メポリズマブ(ヌーカラ®️)の注射が選択肢にあります(いずれも6歳以上)。
また、重症度によらず、アレルゲン免疫療法が選択肢となります。これは、アレルゲンを定期的に投与することにより、アレルゲンに暴露された際に引き起こされる症状を緩和する治療法で、日本で喘息に保険適応のあるのは皮下注射のみですが、舌下免疫療法も効果ありとする報告があり、行う意義は大きいと考えます。アレルギー性鼻炎の合併のある場合には、併用することが推奨されます。
※吸入治療は、手技によってその精度が影響を受けやすく、薬剤がしっかりと肺内へ届くことが大切です。年齢に応じて器具を使い分け、しっかりと効果が得られるようにすることが大切です。今一度、手技を確認しましょう。
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023より
環境整備
薬物治療と並行して、環境整備による増悪因子の除去は重要です。以下に、ガイドラインで紹介されている室内環境整備のポイントをご紹介します。
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023より
他のアレルギー疾患の管理
気管支喘息の方には、アレルギー疾患の合併が多いです。
西日本の6〜12歳の調査によると、アレルギー性鼻炎58.1%、アトピー性皮膚炎29.3%、食物アレルギー13.1%、アナフィラキシー3.6%と合併率と報告されました(2012年)。
アレルギー性鼻炎は喘息の発症やコントロール状況に影響を与えるため、アレルギー鼻炎のコントロールも喘息の管理においては重要です。
お子様が気管支喘息を発症した保護者の方へ
気管支喘息の原因は慢性炎症であり、慢性炎症を治すことで喘息発作ゼロが可能になります。気管支喘息治療のゴールは、発作を起こさない状態を維持し、気道過敏性を改善することです。
現在、発作時の症状を改善させる効果の高い治療が可能になっていますので、軽い発作しか起こさず普段は元気な場合はつい安心してしまうと思いますが、実際には炎症が進行し、気道過敏性も残っている状態です。
発作を起こしにくくする治療では、わずかな変化にも対応し、その時々の状態に合わせた治療によってコントロールしていきます。治療を続けるのには根気がいりますが、将来の肺機能を守るためにも、発作を起こさないゼロレベルを実現しましょう。