アレルゲン免疫療法について
アレルゲン免疫療法は、アレルギー反応を起こさない程度のごく微量なアレルゲンを定期的に体内に投与することにより、体がアレルギー反応を起こしにくくなる治療です。食物アレルギーに対する経口免疫療法、アレルギー性鼻炎に対する皮下免疫療法(注射)、舌下免疫療法(舌下投与)などがあります。
当院では、舌下免疫療法を行なっております。現在、日本の保険診療で行える舌下免疫療法は、スギ花粉とダニの2種類です。
舌下免疫療法とは
舌下免疫療法はアレルゲン免疫療法の1つで、2014年からスギ、2015年からダニに対して国内で保険適用となり、2018年から対象年齢が5歳以上に拡大されました。対症療法とは異なり、微量のアレルゲンを取り入れることで少しずつ身体を慣らし、数年かけて症状を緩和させ(目標3〜5年)、根治につながる可能性のある治療で、完全に症状が消失しない場合も対症療法薬の減薬が期待できます。また、ご自宅での服用による治療ができ、副作用も少なく、アナフィラキシーの発生はほぼ認めません。
近年、アレルギー性鼻炎発症の低年齢化が進み、幼い子どもの発症が増加傾向にあります。アレルギー性鼻炎は、花粉症のように決まった季節にだけ起こるものと、ダニ、ハウスダスト、動物など季節を問わずに症状を起こすものがあり、どちらの場合も症状を緩和させるための治療(対症療法)が行われてきました。幼い子どもの場合、「こんなに小さいうちから薬を飲ませ続けて大丈夫でしょうか」といったご不安の声もよく聞かれます。
これまでの研究結果では、約8割の患者様に有効で、3〜5年継続すると、終了後5〜10年間効果が持続する、と言われています。5歳を過ぎたら治療を開始するようにすると、多忙な中学〜高校時代を快適に集中して過ごせる可能性が高いと期待できます。もしも症状が再燃した場合にも、再開することで初回よりも速やかに立ち上がることがわかっています。さらに、保険適用にはなっておありませんが、気管支喘息の症状も緩和されるとの報告が散見します。
この治療を受けるためには下記のような条件があります。
- スギ花粉症、またはダニアレルギーの確定診断を受けている。
当院では、過去1年以内の検査歴を有効としております。
検査結果をご持参ください。 - 5歳以上
開始する前に、ご自宅で「ラムネ」「FRISK」などの溶けるタブレットで練習しましょう。舌下錠にはアレルゲンが含まれるため、そのまま飲み込んでしまうと、食道などのつっかえた部位でアレルギー反応を起こす危険性があります。必ず完全に溶けてから飲み込むことが大切です。どうしても保持できない時は、吐き出させるようにします。
舌下免疫療法は、舌の下に薬を置いて一定時間待ち、その後飲み込みます。回投与はアレルギー反応を起こすリスクがありますので、初回の投与は当院で行い、30分程度様子を観察します。これで問題がなければ、翌日の服用からはご自宅で行うことができます。
舌下免疫療法は1日1回の服用を数年に渡って続ける必要があります。忘れることが多く、舌下投与率が8割を切ると、舌下終了後の効果の低下が早いという報告もあります。毎日決まった時間帯に予定し、生活習慣の一部にするようにしましょう。
微量とはいえアレルゲンを体内に取り込みますので、アレルギー反応を起こす可能性もゼロではありません。特に、投与開始後1か月に副反応が多くみられますが、ほとんどが痒みや違和感などの軽症のものです。ドキドキと動悸がしたり、腹痛が生じるようになったなど、投与自体を嫌がるような症状の時は、副反応が起きなくなるように投与量・方法を調整することで、治療そのものを継続できるように工夫します。
スギ花粉症の方に向けた舌下免疫療法
花粉症は、花粉がアレルゲンとなってアレルギー症状を起こす疾患の総称で、スギ花粉症はスギ花粉が原因で生じます。発症が多い年代は10~50歳と幅広く、くしゃみや鼻水、目のかゆみ、のどのイガイガ、皮膚のかゆみ、集中力低下などの症状を起こします。命に関わる病気ではありませんが、生活の質を大きく下げ、学業や仕事、スポーツなどに悪影響を与えることもあります。
スギ花粉症の舌下免疫療法は、症状の緩和だけでなく根本的な原因にアプローチすることで、症状の軽減や長期的な症状管理が期待できます。また、すぐに症状が緩和しない場合も、服用する治療薬の減薬につながります。
当院のスギ花粉症に対する舌下免疫療法では、「シダキュア®︎(鳥居薬品)」を使用しています。
ダニアレルギーの方に向けた舌下免疫療法
通年性アレルギー性鼻炎では、季節に関係なく、くしゃみや鼻水・鼻詰まり、目のかゆみなどの症状が現れます。様々なアレルゲンで起こりますが、主な原因にダニがあり、家の中の布団や絨毯、畳などに住み着くコナヒョウヒダニやヤケヒョウヒダニやその死骸・糞などによってアレルギー反応を起こします。こうしたダニアレルギーの根本的な改善が期待できるのが、ダニアレルギーの舌下免疫療法です。症状の軽減や長期的なコントロールが期待でき、すぐに症状の緩和がない場合も、服用する治療薬の減薬につながります。
当院のダニアレルギーに対する舌下免疫療法では、「アシテア®︎(塩野義製薬)」を使用しますが、ご希望や副反応の出方により「ミティキュア®︎(鳥居薬品)」を使用します。
舌下免疫療法に関するよくある質問
舌下免疫療法は、どんな治療ですか?
アレルギー反応を起こすアレルゲンを微量だけ投与し、それを毎日続け、何年もかけて身体を慣らしていく治療法です。体質改善を目指すため、アレルギーの根本的な治療効果が期待できるとされています。
舌下免疫療法は症状を抑える対症療法とどこが違いますか?
対症療法は、個々の症状を緩和させるために行い、服用している期間のみに効果が期待できます。
舌下免疫療法は、アレルゲンに身体を慣れさせることで、体質改善によって症状緩和を目指す治療法です。原因となるアレルゲンを微量のみ含んだ薬を毎日服用し、それを数年間続けることで効果が期待できます。
いつでも治療を開始できますか?
ダニアレルギーの舌下免疫療法は、いつでも開始することができますが、花粉症もある場合は飛散時期を避けて開始することが望ましい場合がありますので、当院までご相談ください。
スギ花粉症の舌下免疫療法は、アレルゲンに対する反応性が高くなるスギ花粉の飛散時期にはスタートできませんので、6~11月の間に開始します。
長期の治療期間がかかると聞きました。具体的にはどのくらいですか?
少しずつ身体を慣らしていく必要がありますので、一般的に3~5年程度継続が必要とされています。
スタート前に検査は必要ですか?
スギ花粉症やダニアレルギーの確定診断が必要となりますので、アレルギー検査でスギ花粉やダニアレルギーの陽性反応を確認します。過去に検査を受けられた方は、おおよそ1年以内の検査結果があればご持参下さい。検査結果は経年的に変化するので、1年以上経過した際には、アレルギー検査を実施します。検査結果は約1週間後にご報告できます。
何年も続けないと効果は実感できませんか?
正しい服用を続けると、スギ花粉症の舌下免疫療法では最初の飛散シーズンから、ある程度の効果を実感できるケースが多いです。ダニアレルギーの舌下免疫療法の場合は、治療を開始してから数ヶ月程度で症状の改善が期待できるとされています。どちらの場合も、数年続けることで最大の効果が期待でき、治療終了後も症状管理が長く持続できるとされています。また、完全には症状を抑えることができないケースもありますが、その場合も症状の緩和が期待でき、減薬にもつながります。
なお、正しい服用を続けないとこうした効果は得られませんので、毎日忘れずに投与するように頑張りましょう
服用に関する注意点はありますか?
投与後のうがいや飲食は、5分程間控えます。これは、舌下に存在する樹状細胞がアレルゲンを取り込み反応するのに必要な時間であると同時に、舌下錠が溶け残った状態で飲み込んでしまわないようにすることが大切です。
また、入浴や運動は服用から2時間以上経過してから行うようにしてください。微量ですがアレルゲンを投与しますので、服用後にアレルギー反応を起こす可能性があります。
副反応のほとんどが最初の1か月に発生し、特に初回はリスクがあります。当院では、初回投与を院内で行い、30分ほど経過を観察します。
費用は毎月いくらくらいですか?
お子様の場合は、「こども医療費助成」の対象になりますので無料です。当院では保護者の方もお子様と一緒に舌下免疫療法を受けられるようにしており、成人の場合には3割負担でスギ花粉症は毎月約1,500円、ダニアレルギーは毎月約2,800円程度のお薬代がかかります。
舌下免疫療法の治療中に、他の薬を服用できないなどはありますか?
舌下免疫療法の治療を受けている間も、アレルギー症状を緩和させる対症療法の治療薬を使うことができます。また、アレルギー以外の薬も大半は問題がありませんが、医師に内服状況をお知らせください。