漢方治療について
漢方薬は中国に発する長い経験医学の中で、臨床結果に基づき複数の生薬を組み合わせて作られてきました。それらの総合的効果として生体に作用しますが、西洋薬のように精製されておらず、消化や腸内細菌による代謝を受けてから吸収され効果を発するので、個体差もあります。一方で、西洋薬では期待できなかった効果、総合的な改善につながる効果が得られることも臨床経過の中では多く遭遇し、うまく西洋薬と使い分けることで、より良い治療から患者様の生活の質を上げることにつながると考えます。
漢方薬は長期的に服用をしないと効果を発揮しないのではと思われる方も多いですが、急性疾患に対してすぐに効果が期待できるものも存在します。
漢方薬の基礎となる東洋医学は、人間の身体が本来持っている自然治癒力を引き出す効果を重視し、病気の治療だけでなく、病気にはまだなっていない半健康な状態の未病を改善してより健康な状態に近付けることも可能です。
当院では、西洋薬と同様に漢方薬を処方しており、ご提案させて頂くことができます。漢方薬による治療を検討したいとお考えの場合には、お気軽にご相談ください。
漢方薬で効果が期待できる疾患や症状
- 発熱を伴うかぜ症候群(感冒)、インフルエンザ
- 長引く咳
- 慢性鼻炎
- 急性鼻炎
- ウイルス性胃腸炎などによる嘔吐や下痢
- 器質的な疾患のない便秘
- 器質的な疾患のない腹痛（過敏性腸症候群など）
- 頭痛(緊張性頭痛・片頭痛・起立性調節障害などの原因疾患がない頭痛)
- 繰り返す中耳炎
- 夜泣き、癇癪（かんしゃく）
- 器質的疾患のない食欲不振
- 乳児の肛門周囲膿瘍
- 疲労
- 思春期のイライラ
- 感染予防
- 夜尿症 など
漢方薬処方のみで治療が可能なケースもありますが、西洋医学による処方と漢方薬を併用した治療で高い効果を見込める場合もあります。
また、はっきりとした症状や疾患がなく、体調が優れない、風邪になりやすいなど未病の改善に有効な漢方薬もあります。
当院では、お子様だけでなく、付き添いでいらしたお母様の育児疲れや不定愁訴などへの漢方薬処方も行っています。
気になる症状や体調不良がありましたら、お気軽にご相談ください。
漢方薬の副作用
漢方薬も、頻度は少ないものの、西洋薬と同様に副作用があります。副作用の報告が多い成分（甘草、麻黄、当帰など）を含む量が漢方薬の種類により様々で、お子様の体質によっても異なります。
小児では、成人によく見られる小柴胡湯による間質性肺炎は少なく、小青竜湯や麻杏甘石湯、麦門冬湯などによる間質性肺炎との関連が挙げられています。甘草による偽アルドステロン症、柴胡剤に含まれる黄ごんによる間質性肺炎や肝障害、麻黄による興奮や不眠、などの副作用に注意します。間質性肺炎の多くは２か月以内、甘草による偽アルドステロン症は１〜数ヶ月で現れます。
偽アルドステロン症の初期症状は、顔や手足のむくみ、尿量減少・体重増加、脱力感・筋力低下・筋肉痛・こむら返り、頭痛・のぼせ・肩こり、手足のしびれ・こわばり、嘔気・嘔吐・食欲不振などです。甘草は100種類以上の漢方薬に含まれますが、含有量の多いものは一部です。その中で、小児でよく使用されるものは、小青竜湯、甘麦大棗湯、排膿散及湯などがあります。定期的な受診で、健康状態をチェックしながら継続を検討します。
当院で処方する漢方薬
大建中湯(ダイケンチュウトウ)
子どもの便秘解消に効果が期待できます。便秘で硬い便を無理に出した際に生じる裂孔(切れ痔)がある場合にもお勧めできます。また、便秘で強くいきむ習慣があると裂孔を繰り返して腫れ（見張りいぼ）ができてしまう場合もありますが、その予防にも役立つとされています。なお、西洋医学の便秘薬との併用も可能です。
六君子湯(リックンシトウ)
原因疾患が特になく、食欲不振や元気のないお子様に適した漢方薬です。お腹の調子を崩しやすい、気力が出ないなどの場合も効果が期待できます。
十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)
赤ちゃんの肛門周囲にできるおできである「肛門周囲膿瘍」に対して効果が期待できる漢方薬です。肛門周囲膿瘍は再発しやすく、悪化すると皮膚までつながる管状の穴ができてしまう痔ろうを発症し、手術が必要になることがあります。早期に治し、再発を防ぐことが重要です。
葛根湯(カッコントウ)
感冒初期（発症1〜2日目）、中耳炎初期で発赤・疼痛が強くない時に効果が期待できます。特に、肩から項（うなじ）にかけてこる場合には適切です。軽い発汗作用により、体表にある熱を発散させ解熱傾向を促すとともに、体を冷やしながら血流量を増加させることで体調を整えます。
麻黄湯(マオウトウ)
急な発熱を起こすインフルエンザなどの感染症にかかった際に有効な漢方薬です。全身の筋肉痛を伴う感冒初期（発症1〜2日目）に適しています。発汗を促進して解熱を促す効果があり、発熱の初期に内服すると1～2時間後には大量の汗をかき、熱が下がります。インフルエンザなどの感染症での急激な発熱や、寒気がある時に飲むと効果があります。汗をかいたら汗を拭いて乾いたパジャマに着替えさせてください。
桔梗石膏(キキョウセッコウ)
中耳炎で発赤、疼痛が明らかな時、抗菌薬などと併用することで治癒を促進する可能性があります。咽頭炎や痰がらみ、膿性の炎症に効果があります。
補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
高齢者や病後や疲れやすい成人にもよく使用される疲労回復を期待する漢方薬です。消化機能が衰え、疲れやすい子どもや活動力が低下している子どもにも適しており、感冒や病後の体力低下、食欲ふしん、夏バテ・夏やせなどに有効です。また、アトピー性皮膚炎にも効果が認められています。
清暑益気湯(セイショエッキトウ)
熱を下げながら体力を回復させ、食欲不振や倦怠感に有効で、夏バテ・夏やせに使用されます。
五苓散(ゴレイサン)
下痢や嘔吐を伴う胃腸炎に有効な漢方薬で、特に嘔吐の症状が強い場合や、のどの渇きを訴える場合にお勧めできます。細菌性胃腸炎の場合は、抗生物質との併用で高い効果を見込めます。胃腸炎以外では、頻尿や夜尿、慢性頭痛にも有効なケースがあります。
麦門冬湯(バクモンドウトウ)
難治性の喘息や咳喘息で乾いた咳を起こす場合に有効で、比較的早い改善効果が期待できます。
喘息治療の西洋薬であるロイコトリエン拮抗薬や吸入ステロイド薬との併用が特に効果的です。
小建中湯(ショウケンチュウトウ)
生まれつき虚弱体質のお子様に向いています。また、頻繁に腹痛を訴える場合や、食が細くて体重が思うように増加しない場合にも改善効果が期待できます。夜尿症にも、膀胱の緊張緩和に伴い膀胱容量が増える効果が期待できます。
甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)
夜泣きをする乳幼児に適した漢方薬です。甘く、口当たりが良いため幼い子どもでも飲みやすいという特徴があります。
寝付きが悪い、睡眠のリズムが崩れた、落ち着きがないなどの場合にも効果が見込めます。
なお、甘麦大棗湯では十分な効果を得られない場合も、下記の抑肝散(ヨクカンサン)が有効なケースがあります。
抑肝散(ヨクカンサン)
睡眠リズムが崩れた、夜泣きがひどい、寝付きが悪いといった症状があり、甘麦大棗湯では効果がない場合にお勧めできます。落ち着きがない、癇癪、チックなどにも効果が期待できます。子育てでお疲れの保護者様もイライラしてしまう場合には、親子で内服される場合もあります（母子同服）。
また、難治性の蕁麻疹で一般的な西洋薬が効かない場合に抑肝散を併用することで症状改善につながるケースもあります。
苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)
体力が比較的保たれていて、めまい、ふらつき、動悸を認めるような起立性調節障害のお子様に使用します。
半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)
胃腸が弱くて体力がなく、めまい、頭痛を認めるような起立性調節障害のお子様に使用します。胃腸の働きを促し消化吸収を高め、貯留した水分を尿として排除し、体力を安定させます。
小青竜湯(ショウセイリュウトウ)
体を温め、貯留した水分を排除する作用があることから、水様鼻汁、鼻閉（鼻づまり）、くしゃみなどのアレルギー性鼻炎、喘鳴（ぜいぜいすること）や咳を伴う感冒や気管支喘息・気管支炎に効果が期待できます。
桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)
体力がなく、痩せて顔色が悪かったり、神経が過敏で精神不安のあるような強い緊張感を伴う夜尿症のお子様に効果が期待できます。緊張がほぐれることで膀胱容量が増加し、夜間の尿を貯められるようになります。
桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)
腹部膨満感のある腹痛やしぶり腹に有効で、過敏性腸症候群のお子様（幼児期以降）に使用されます。血流を良くして体が温まるほか、利尿作用が主となるとも言われています。
黄耆建中湯(オウギケンチュウトウ)
夜尿症、過敏性腸症候群の方で、虚弱で皮膚疾患や易感染性（感染しやすい）などの特徴があるお子様に効果が期待されます。
半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)
気分が塞いで咽頭、食道部に異物感があり、動悸・めまい・嘔気などを伴う際に、使用されます。過敏性腸症候群などの治療で、併用することもあります。
排膿散及湯(ハイノウサンキュウトウ)
肛門周囲膿瘍の経過において、自壊した際や切開排膿を行った際に、排膿を促進する目的で使用します。
麻杏薏甘湯(マキョウヨクカントウ)
水いぼ（伝染性軟属腫）、イボ（尋常性疣贅）の病初期（数ヶ月以内）、または慢性期でも体力があるときは継続します。皮膚の新陳代謝を活発にすることで、治癒を促進したり、新出病変を予防することが期待できます。
薏苡仁湯(ヨクイニントウ)
水いぼ（伝染性軟属腫）、イボ（尋常性疣贅）の慢性期で体力低下がある時に使用します。皮膚の新陳代謝を活発にすることで、治癒を促進したり、新出病変を予防することが期待できます。
抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)
体力が低下し、神経が過敏で興奮しやすい状態に有効です。夜泣き、かんしゃく、チックなどに使用されます。
子どもでも漢方は飲める？
漢方薬は、独特の香りや強い苦味があるイメージが強いと思いますが、子ども用に作られた甘味があって飲みやすい漢方薬も存在します。また、お薬ゼリーやオブラートなどを使用することで、お子様でも抵抗なく内服できるようになるケースがあります。赤ちゃんに与えるときは、少しの水で小さなお団子状に丸めて頬の裏（頬粘膜）にくっつけるという投与法があります。