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小児消化器疾患

小児消化器疾患について

子どもは、出生時に有する消化酵素が成人と異なり、徐々に活性化します。胃蠕動は生後数日して律動的パターンを示し、消化吸収能は十分に備わって生まれてくると言われますが、低出生体重児や早産児では未熟です。腸内細菌叢の形成は生下時からはじまり、消化・吸収や消化管粘膜免疫系を成熟させます。乳児期の胃と食道の接合部(つなぎ目)の角度は鈍で、少しの腹圧で胃内容物が逆流し、嘔吐しやすい環境にあります。
このように、消化器機能が成長途中のため、成人とは異なる病態や症状を生じる場合があるため注意が必要です。

子どもの代表的な消化器疾患

便秘症 constipation

便秘便秘は子どもの1割程度が経験する珍しくない症状です。便秘は、「便が滞った状態」や「便がでにくい状態」と定義され、便の回数が少ないという症状だけでなく、スッキリ気持ちのよい排便ができていない状態を幅広く含みます。
国際的な機能性消化管障害の分類・診断基準であるRomeIIIによると「1週間に2回以下の排便」をはじめ、週1回の便失禁、便を我慢する姿勢・過度の自発的便貯留の既往、痛みを伴うあるいは硬い便通の既往、直腸に大きな便塊の存在、トイレが詰まるくらい大きな便の既往、などの項目を挙げ2つ以上該当するもの、と定義しています。
毎日排便がある場合でも、少量ずつしか出ない・硬く小さい便が出る、排便時に痛がる、お腹の張りを訴える場合も便秘が疑われます。排ガスが多い、足を絡ませたりお尻を床に擦り付けたりして便意を我慢している様子がある、などで便秘に気付くこともあります。
便秘で便が硬くなると排便が困難になり、便意を我慢してさらに便秘を悪化させてしまうことも多いです。また、便秘が長く続くと、直腸粘膜が伸展して便意を感じにくくする、という点でも悪循環に陥りやすいです。軽度で一過性の便秘であれば、十分な水分摂取と食事内容の見直しで改善できる場合がありますが、排便の問題が続くと便秘が慢性化する可能性があります。
治療は、適切な生活習慣と薬物治療が行われます。
治療の目標は「便秘でない状態=苦痛を伴わない排便が週3回以上認められ、遺糞などの便秘症に伴う症状が認められず、患児・養育者のQOLが損なわれていない状態」としましょう。
生活習慣としては、

  • 適切な食事摂取量(無理なダイエットはしない)
  • 食物繊維豊富な食材を積極的に摂取する
  • 朝食後の排便習慣のため夜更かし、寝坊は避けるようにする
  • 適度な運動を心がける
  • 便意を感じたら、我慢せずにトイレに行く

などに注意しましょう。

薬物療法は、浸透圧性下剤(便を軟らかくする)、刺激性下剤(蠕動を亢進させる)、消化管運動賦活薬、漢方製剤などがあり、年齢や便秘のタイプにより組み合わせて行います。過去の研究から、ポリエチレングリコール(モビコール®️)が従来からの他薬剤より効果的であることが示され、また同薬剤は消化管を通過する間に腸粘膜から吸収されないことから副作用の可能性は極めて低い点でも安心して継続できるため、保険適用の2歳以上のお子様には推奨しております。やや塩味があることから苦手なお子様には、他薬剤を調整し使用します。
自力で排便できないほどに便が固く大きくなってしまった場合には、浣腸や坐薬、場合によっては摘便を行います。

当院では超音波検査を行って腸内の状態を確認したり、保護者の方のお話を伺い、便秘解消のための治療やサポートを行っています。

感染性胃腸炎 infectious gastroenteritis

細菌やウイルスなどの病原体に感染して発症する胃腸炎の総称です。病原体に汚染された飲食物を口にしたり、感染者の吐瀉物や便に含まれる病原体が手指や空気などを介して感染します。
感染性胃腸炎は、ウイルス性胃腸炎と細菌性胃腸炎に分けられ、ウイルス性胃腸炎が大半を占めます。代表的なウイルス性胃腸炎には、ノロウイルスNoro virus、ロタウイルスRota virus、アデノウイルスAdeno virusなどがあります。乳幼児に多いロタウイルスによる胃腸炎は、激しい嘔吐や下痢が続いて危険な脱水症状を起こす可能性が高く、循環血液量減少性ショックや急性腎障害などの深刻な状態になる危険性があることから、ロタウイルスワクチンが小児の定期予防接種となっています。なお、ロタウィルスに特徴的な水様性の白色便は“米のとぎ汁様”とも表現されます。
細菌性胃腸炎は食中毒とも呼ばれ、原因菌にはサルモネラ菌、カンピロバクター、病原性大腸菌などの他、毒素産生型(黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌など)があります。
いずれも、主な症状は嘔吐や下痢ですが、発熱、強い腹痛、血便などを伴うことがあります。感染性胃腸炎で下痢や嘔吐がある場合、脱水症状を避けるために十分な水分補給が大切です。点滴に近い効果を得られる経口補水液による水分補給が効果的です。
症状や状態に合わせて、吐き気止めや整腸剤などの処方が行われる場合もあります。なお、下痢止めは、腸内に増殖した病原体や毒素の排出が遅れて重症化する可能性がありますので、むやみに使用することがないように注意してください。

過敏性腸症候群 irritable colon of childhood

腸が知覚過敏を起こし、わずかな刺激に反応して下痢や便秘などの症状を繰り返す疾患です。
Rome III基準による診断基準は、以下の通りです。
下記のすべての項目があること

  1. 腹部不快感(痛みとは言えない不快な気分)または腹痛が、下記の2項目以上を少なくとも25%以上の割合で伴う
    a) 排便によって症状が軽減する
    b) 発症時に排便頻度の変化がある
    c) 発症時に便形状(外観)の変化がある
  2. 症状を説明する炎症性、形態的、代謝性、腫瘍性病変がない
    2か月以上前から症状があり、少なくとも週1回以上、基準を満たしていること。

主な症状は腹痛、下痢・便秘などですが、下痢やお腹の不快感が毎朝あるが昼過ぎには症状がなくなる、はっきりした便意がない・便意があるのにスムーズに排便できない、お腹が張る・お腹が鳴る・排ガスが多い、トイレに行く回数が増えるなど、様々な症状を示します。小学生の1~2%、中学生の2~5%、高校生の5~9%がこうした問題に悩まされているとされており、ストレスが発症に関与していると考えられています(腸脳相関、胃結腸反射)。なお、過敏性腸症候群の診断には及ばず、器質的疾患もないものの、「3か月以上にわたり、少なくとも3回以上、日常生活に支障をきたす腹部の痛み」は反復性腹痛 recurrent abdominal pain(RAP)とされ、将来的に過敏性腸症候群へ移行することが多いと言われています。

治療は、生活療法と薬物療法、それらの組み合わせにより行われます。
生活療法は、規則正しい睡眠生活・リズム・排泄習慣を身に付ける、お腹を冷やさないなどが治療の基本になりますが、症状によって分けられる下痢型、便秘型、ガス型は、それぞれ食生活での注意点が異なります。下痢型では、乳製品や冷たい飲みもの、カフェイン、高脂肪食を控えましょう。便秘型では十分な水分と食物繊維(※)の摂取が大切です。ガス型では、腸内のガスが貯留しやすい飲食物(玉ねぎ、いも類、果物、ソルビトール、炭酸飲料、ガムなど)を控えます。

(※)食物繊維には、便を軟らかくする水溶性と、腸を刺激して排便を促す不溶性があります。便がコロコロと硬く、腸の収縮が強くて腹痛が起きる状態では、不溶性食物繊維を控えめにした方が良いでしょう。
水溶性食物繊維を多く含む食品:野菜類・穀類・豆類・未熟な果物・きのこ
水溶性食物繊維を多く含む食品:熟した果物・こんにゃく・海藻など

薬物療法は生活療法で改善のない場合に行われます。抗コリン薬、整腸剤、腸管運動調整薬、便秘薬、止瀉薬、漢方薬などを使用します。症状に合わせて調整しながら、複数の薬剤を組み合わせることもあります。

急性虫垂炎

大腸である盲腸(上行結腸の一部、大腸の始まり部分)にあるひも状の虫垂に炎症を起こす疾患です。小児では、年長児〜小中学生に多く、5歳以下は少なく、2歳以下はきわめて稀です。小児では、腹痛を主訴とする疾患が多いですが、その中でも急性虫垂炎は緊急手術を要することがあるため、注意が必要です。
虫垂は細長いため(太さ4~5mm、長さ5~10cm)、その根部が詰まることにより、それより先の内腔に分泌物が貯留して内圧が上昇するため、粘膜面の循環障害をきたした結果、細菌が壁内へ侵入しやすくなり、炎症を起こします。詰まる原因は、糞石、異物、リンパ濾胞の腫大、屈曲などがあります。化膿すると1~2日で虫垂が穿孔し(破れ)、膿が周囲に広がって腹膜炎を起こします。5歳以下では半数以上が穿孔例と言われます。虫垂が穿孔しないうちに手術で摘出することが大切です。
主な症状は腹痛、吐き気、発熱などです。典型的な腹痛は、心窩部(みぞおち)や臍周辺から始まり、時間経過と共に虫垂のある右下腹部に移動していきます。歩く・走るなどの動作で痛みが強くなり、排便しても痛みは消えません。歩行時には、前傾姿勢となり、右下腹部を抱え込むようになります。高熱や下痢を伴う場合はすでに虫垂が破れてしまっている可能性があるため、直ちに受診する必要があります。
症状や経過などを詳しく伺った上で、診察・触診にて圧迫痛や腹筋の緊張などを確認します。血液検査、超音波(エコー)検査、場合によってはCT検査などを行い、診断します。疑わしい場合には、速やかに治療可能な施設へご紹介させていただきます。また、年齢や典型例ではない症状があるなどの問題で判断が難しいケースも少なくなく、判然としないような場合にはご相談の上でご紹介させて頂きます。
治療は、基本的には外科手術ですが、近年では抗菌薬の点滴で保存的に治療することもあります。外科手術は、穿孔前であればほんの小さな傷で実施できる腹腔鏡手術が適応されますが、穿孔の可能性がある場合や腹膜炎が疑われる場合は、従来通りの皮膚切開で行い、腹腔内を洗浄します。入院期間は、急性虫垂炎で虫垂が破れていない場合は、手術後1週間程度で退院が可能です。

腸重積

腸が重なり合うように腸の中に入り込んでしまい、その部分が重積することによって起きるる絞扼性イレウスです。放置すると腸閉塞(イレウス)、腸管壊死を起こし、危険な状態になる可能性があり、速やかな処置が必要です。生後6か月から2〜3歳までが多く、65%が1歳未満、80-90%は2歳未満で発生します。
主な症状は、腹痛、嘔吐、イチゴジャムのような粘血便です。早期には粘血便が出ないこともあります。症状を訴えることができない幼いお子様の場合は、間欠的啼泣(5分ほど七転八倒しながら激しく泣いたかと思えば、ケロッとして遊びだし、また5分ほどしたら七転八倒しながら激しく泣く、といったことを繰り返すような泣き方)や、泣き続けてぐったりするという様子があれば、お早めに医療機関を受診してください。
エピソードを伺い、診察とともに、判然としない場合には浣腸によって粘血便の有無を確認したり、超音波検査を実施して、可能性を否定できない場合には速やかに高度医療機関へご紹介させて頂きます。
時間経過が短ければ注腸造影検査によって確定診断をするとともに、そのまま治療が行われます。造影剤を肛門から注入して、重なった腸を戻すことで整復できますが(発症後24時間以内)、腸重積が起こってから時間が経過して腸に壊死が起こっている可能性がある場合は手術が必要になります。