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長引く咳、乾いた咳が続く

咳は、身体を守るための防御反応です。咳を起こす原因を知り、原因疾患を治療した結果、咳が出なくなることが大切です。

 

咳止めでは、咳を治すことはできません

咳は、気道に入り込んだ異物や過剰な分泌物を迅速に排出するための防御反応です。小児科で処方される咳止めは、中枢性非麻薬性鎮咳薬に分類され、気道の刺激が伝わり延髄の咳中枢が作用するのを抑制します。
咳は、異物や過剰な分泌物を排除する役割を担うため、これを止めることによりこれらの除去に時間がかかったり、うまく出せない状態が続くと原因疾患を悪化させることもあります。
咳が長引き、咳止めで一時的に治まっても中止すると再発するケースがよくありますが、これは、咳止めは咳反射を抑えるだけで、根本的な咳の原因を治すことができていないからです。咳は様々な疾患の症状として現れますが、長引く咳は、感染症や喘息、呼吸器疾患、耳鼻咽喉科疾患、消化器疾患などが原因となっている可能性があります。
特に咳が2週間以上続く場合は、原因を確かめ、適切な治療につなげることが重要です。

咳の原因

咳の原因咳の症状を起こす疾患は多岐に渡り、風邪・肺炎・クループ症候群・インフルエンザ・百日せき・マイコプラズマ・RSウィルス・ヒトメタニューモウィルスなどの細菌やウイルスなどによる疾患、小児気管支喘息・咳喘息といった呼吸器疾患、副鼻腔炎など鼻の疾患、のどがかゆくなるアトピー性の咳やアレルギーの咳、胃食道逆流症といった消化器疾患などがあります。

咳の症状を起こす主な病気

風邪

細菌・ウイルスなどに感染し、鼻やのどなどの上気道に炎症が起こる疾患の総称です。かぜ症候群や感冒(かんぼう)と呼ばれることもあります。大半はウイルス感染によって生じ、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ライノウイルスなどがあります。
発症してから10日~25日経過すると改善に向かいますが、炎症で気道が過敏になって咳が慢性化する感染後咳嗽(がいそう)を起こすことがあります。感染症の症状があり、咳が残った場合には定期的に受診して経過を観察し、適切な治療につなげることが重要です。

クループ症候群(急性喉頭気管支炎)

主にウィルス感染により、声を出す声帯周辺に炎症が生じ、特徴的な咳症状を起こす疾患の総称です。1歳未満の子どもが重症化しやすいとされ、主な症状は、犬やオットセイの鳴き声に似た“ケンケン”という犬吠様咳嗽、息を吸う際の喘鳴(吸気性喘鳴)、声枯れです。発熱や鼻水を伴うこともあります。重症化すると呼吸が困難になり、呼吸時に肩が動いてしまう肩呼吸、息を吸う際に肋骨下や胸骨上が凹む陥没呼吸などの努力呼吸などの危険な症状が現れます。こうした症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。
交感神経刺激薬やステロイドの吸入薬、ステロイドの内服薬などで治療が行われます。特に元々気道が細い乳児期の赤ちゃんは重い症状になるリスクがあり、状況によって酸素投与が必要になることがります。

副鼻腔炎

顔の皮膚下に薄く広がる副鼻腔の粘膜に感染などで炎症を起こしている状態です。黄色く粘度の高い鼻水、鼻詰まり、顔や頭の痛みなどの症状を起こしますが、炎症によって副鼻腔にたまった膿がのどの方に流れてしまう後鼻漏という特徴的な症状を起こすことがあります。
急性の副鼻腔炎は60%に自然治癒が期待できるとされていますが、放置や治療の中断によって慢性化することがあります。
副鼻腔炎は強い鼻詰まりや後鼻漏などの不快な症状があり、鼻呼吸がスムーズにできないことで集中力や生活の質が低下しやすい疾患です。疑わしい症状がある場合は早めに受診して正しい診断を受け、抗生物質などを使った治療で根治させることが重要です。

気管支炎・肺炎

風邪などの日常的な感染症でも、炎症が広がってしまうと気管支炎や肺炎などを起こすことがあります。気管支炎では発熱や咳などの症状が強くなり、重症化するリスクもありますので、状態に合わせた治療が必要です。治療は、大半がウイルスによって生じることから抗菌薬では治せませんが、一般的な治療で十分な改善が見られない場合は細菌感染や混合感染の可能性があり、抗菌薬を投与することもあります。肺炎も気管支炎と同様の治療を行いますが、肺炎の場合には呼吸困難を起こすリスクがあり、短時間に悪化して酸素吸入が必要になるケースもあります。悪化の可能性がある場合には連携している高度医療機関をご紹介し、入院加療できるようにします。

気管支喘息

気管支が慢性的に炎症を起こして過敏になり、刺激を受けると狭窄して喘息発作を起こします。発作の際にはヒューヒューゼイゼイという特徴的な喘鳴を起こします。喘息発作を起こしていなくても、咳が続く、朝方のひどい咳で起きてしまう、運動後に息切れが続くなどがある場合も気管支喘息が疑われます。他にも、喋れなくなるほど強い咳が出る、呼吸の際に肩が動く、呼吸で鎖骨上や肋骨下に凹みが現れる、小鼻が動くなどの症状がありましたら、早めにご相談ください。
気管支喘息の主な原因はアレルギーで、特にハウスダストなどによるアレルギー反応をきっかけにして発症することが多いです。また、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーがあると気管支喘息を発症しやすい傾向があります。ただし、アレルギーがなくても気管支喘息を発症するケースもありますので注意が必要です。

咳喘息

喘息ですが、特徴的な喘鳴や呼吸困難を起こさず、痰の絡まない乾いた咳の症状だけが続きます。咳は、夜中や朝方に起こりやすく、冷気や受動喫煙などの刺激で起こることもあります。喘鳴を伴わず、咳以外の症状もほとんどないことから、風邪による咳だけの症状が残ってしまったと考えて放置されることがあります。咳喘息には、気管支喘息の方と同様に気管支拡張薬が有効です。また、気管支喘息になってしまう可能性が一定のワイアえあります。早期に適切な治療を受けることが重要です。

百日咳

百日咳菌(パラ百日咳菌)が飛沫を介して感染する疾患です。風邪と共通した症状が1~2週間続き、それを過ぎるとコンコンという咳が残り、息を吸い込む際にヒューという音を立てる症状が生じたら、百日せきが疑われます。顔が赤くなる症状が現れることもあります。こうした症状も1週間から数ヶ月経過すると回復します。
4種混合ワクチンによって予防できるようになり発症者数は減少傾向にありましたが、近年になって小学校高学年を中心に発症者数がわずかに増加傾向にあります。海外では、成長してから発症しやすくなる傾向を鑑み、5歳、11歳への追加接種を行っているケースもあります。
百日せきは、家族内感染も多く、成人の発症もあります。ワクチン接種を受けていない6か月未満の子どもの感染は、咳に加えて無呼吸発作を起こすことがあり、命に関わる可能性があって特に危険です。
学校衛生法では、完全に咳が消えるか、5日間の抗生物質による適切な治療を受けて効果が得られたと認められるまで出席停止とされます。
特徴的な症状が現れますので、疑わしい症状に気付いたらお早めにご相談ください。

気道異物

小さなお子さまは好奇心が旺盛なため、身の回りのものを何でも口に入れます。その結果、食べ物以外の異物を誤って飲み込んでしまうケースも多いです。
異物が喉や気管支などに詰まると、呼吸困難を引き起こす危険性があります。特に、小さな異物を飲み込んだ場合は気道の一部が確保されていることもあり、ゼーゼーとした喘鳴(ぜんめい)に似た呼吸音が聞こえることがあります。
たとえ一時的に問題がないように見えても、異物が移動することで突然呼吸ができなくなる可能性があります。そのため、自己判断で様子を見ることは避け、すぐに救急車を呼んで医療機関を受診してください。
異物は、状況に応じて内視鏡などの医療機器を使って安全に取り除きます。

※「誤飲」と「誤嚥(ごえん)」の違い

誤飲と誤嚥は音の響きが似ており、どちらも口に入れたものを飲み込む際に生じますが、誤飲は飲食物ではない異物を飲み込んでしまうことで、誤嚥は飲食物や異物が食道ではなく気管に入ってしまうことです。誤嚥は呼吸のための空気が通る気道が塞がれて窒息する可能性のある状態で、上記の気道異物は誤嚥によって起こります。
誤嚥で特に注意頂きたいのはピーナッツです。3歳以下の子どもの気道異物の半数以上は、ピーナッツが原因です。ピーナッツを無事に除去できても、その後になって気管に強い炎症を起こし、肺炎を発症するケースもあります。刻んだものも含め、3歳以下の子どもにはピーナッツを食べさせないよう心掛けることで、誤嚥による気道異物のリスクを下げられます。
誤飲では、体内に入ってしまうと危険な異物を飲み込んだ場合に深刻な状態になります。たとえば、小さなボタン電池を誤飲してしまうと、数時間で中のアルカリ性物質が溶け出し、命に関わる可能性もあります。
なお、ボタン電池の誤飲や気道異物は一刻も早く除去する必要がありますので、疑わしい場合にはすぐに救急対応している大きな病院を受診してください。

胃食道逆流症

胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流して食道に炎症を起こす逆流性食道炎の前段階として起こる症状です。胃や食道の先天的な異常などが発症に関与しているケースもあります。子どもの胃食道逆流症は、食べ過ぎ、食物アレルギーなどが主な原因となって生じますが、赤ちゃんは授乳の際の姿勢や飲み過ぎによって発症します。ただし、赤ちゃんが授乳後にげっぷをして、胃の内容物を少し吐いてしまうのは正常な反応ですので、胃食道逆流症とは診断されません。
胃食道逆流症では、食道にある咳受容体が胃酸などで刺激されると日中に乾いた咳をする、横になると咳が出るといった症状を起こします。なお、進行すると逆流してきた胃酸の刺激で炎症が広がり、気管支まで達することがあります。

心因性咳嗽(がいそう)

ストレスなど心理的な要因で症状を起こす咳です。緊張や不安など心因性の要因によって気道が刺激され、咳が続きます。日中に咳の症状が起こりますが、就寝時には異常を起こさないという特徴があります。咳の症状は、気管支喘息、咳喘息をはじめ、様々な疾患によって生じますので、器質的疾患がないかを検査で確かめ、問題がなかった場合に心因性咳嗽を疑います。

咳の症状の違い

咳の症状の違い他の症状や咳が起きやすい時間帯やタイミングなども、原因疾患を特定するために重要ですが、原因疾患によって特徴的な咳をする場合があり、咳の特徴によってある程度原因が特定できる場合があります。咳の症状がある場合は、音の特徴、他の症状の有無や内容、咳を起こしやすい時間帯やタイミングなどを観察しておきましょう。
咳は、その音の特徴でいくつかに分けられます。

  • コンコン:乾いた咳
  • ゴホンゴホン:湿った咳
  • コンコンコンコンコンコンヒー:百日せき
  • ケンケン:クループ症候群
  • ヒューヒューゼイゼイ:気管支喘息

明け方や夜中にヒューヒューゼイゼイという苦しそうな咳をする場合は、気管支喘息が疑われます。早めに受診してください。

咳の診断

長引く咳は、問診で咳の特徴や、はじまった時期、これまでの経過、他の症状の有無と内容、服用している薬や既往症、家族歴、生活習慣などについて丁寧に伺った上で、必要な検査を行って診断しています。

ご自宅でのケア

乾燥した空気は気道に大きな負担をかけますので、室内の湿度は60%程度を保つようにしましょう。また部屋はこまめに換気し、換気が難しい場合には空気清浄機を使って、汚染物質を取り除きましょう。
お子様の咳が続いている際は、抱っこ、または座らせて上体を起こし、背中を優しくさすってあげると症状が緩和することがあります。また、咳は体内の水分が不足していると出やすいので、こまめな水分補給を心掛けましょう。水分補給をしっかりすることで咳症状の改善が期待でき、痰も水気を多く含んで排出しやすくなります。
ただし、咳は様々な疾患で起こり、中には早急に適切な治療が必要なケースもあります。病気が原因で起きている咳の場合、ご自宅でのケアだけでは悪化させてしまう場合があります。早めに受診して原因を確かめ、疾患が原因の場合には適切な治療を受けましょう。

お子様に長引く咳の症状がある保護者の方へ

咳がある場合、咳止めを処方されることがありますが、咳止めは症状を出さないよう抑える薬であり、咳の原因となっている疾患を治すことはできません。咳の原因になっている病気を見つけ、その病気を治すことで結果的に咳も治まりますので、咳の症状が続く場合にはお気軽にご相談ください。
なお、お子様が咳をする様子をスマートフォンなどで撮影し、受診の際に見せて頂くと、咳の状態や様子を正確に把握でき、適切な診断に役立ちます。