アレルギーとは?
人の体には、細菌・ウィルス・寄生虫などの感染性微生物や異物などから身を守るための「免疫」という仕組みが備わっています。
この「免疫」の働きが異常を起こし、くしゃみ、発疹、呼吸困難などの症状を起こしてしまう状態を「アレルギー」と呼びます。
小児アレルギー
当院では、様々なアレルギー性疾患に対応した診療を行っており、患者様に合わせた治療を行います。アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎・花粉症、食物アレルギー、気管支喘息、蕁麻疹など、お気軽にご相談ください。
次々にアレルギー疾患を発症する「アレルギーマーチ」
アレルギーになりやすい体質(アトピー素因、アレルギー体質)がある場合、乳幼児期のアトピー性皮膚炎を始まりとし、食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎と、成長過程で次々とアレルギー疾患を発症する「アレルギー・マーチ(atopic march)」を起こすことがあります。アレルギー・マーチは皮膚からアレルゲンが入ることをきっかけに生じると考えられており、皮膚のバリア機能が低下するアトピー性皮膚炎があると皮膚感作のリスクが高くなり、連鎖的に他のアレルギー疾患を発症しやすい傾向になります。
近年小児のアレルギー疾患が増加する中で、このアレルギー・マーチの発症・進展を予防することが重要な課題とされています。アトピー性皮膚炎を早期に治療し、新生児期からの保湿剤塗布により皮膚のバリア機能を改善することが重要です(2014年国立成育医療研究センターによると、「新生児期からの保湿剤塗布によりアトピー性皮膚炎の発症リスクが3割以上低下する」ことが報告されました)。
小児アレルギーの代表的な疾患
アトピー性皮膚炎 atopic dermatitis
アトピー素因(アレルギー性の喘息および鼻炎、結膜炎、皮膚炎)に基づく、慢性に皮膚の炎症や湿疹を繰り返す(乳児期2か月以上、その他6か月以上)皮膚疾患で、強いかゆみを伴います。皮膚を保護しているバリア機能が低下することで、汗や乾燥をはじめとした様々な刺激によって炎症を起こしやすい状態です。
皮膚症状は顔・四肢・体幹など全身の様々な部位に現れ、激しい搔痒感を伴います。顔や耳のジクジクした湿疹や、乾燥により厚い角質がはがれ落ちる状態が特徴です乳幼児期に頭部や顔面に生じ、次第に体幹に拡大します。小児期には、皮膚全体が乾燥して光沢と柔軟性を欠き、ひじ・ひざ・わきの下などに掻爬痕(掻いたあと)・苔癬化(皮膚が厚く固くなる)を認めます。思春期・成人期はさらに苔癬化局面が進行・拡大し、上半身を中心に暗褐色、粗ぞう、乾燥した「アトピー皮膚」を呈します。
アレルギー疾患のある家族がいる場合に発症しやすく、皮膚のバリア機能や免疫がまだ弱い乳幼児の発症が多い傾向があります。
治療は、①炎症を制御し痒みを和らげる薬物療法を行うこと:適切な強さと量のステロイド外用薬の塗布、痒みに対する抗ヒスタミン薬の内服を適宜行う、②低下した皮膚バリア機能を補うスキンケアを行うこと:清潔・保湿・紫外線予防(※スキンケアへ)、③悪化因子を検索してできる範囲で取り除くこと、です。
最近登場したアトピー性皮膚炎の治療薬であるJAK阻害剤(コレクチム®︎外用)やPDE4阻害剤(モイゼルト®︎外用薬)は、適切な治験で安全性や炎症とかゆみを抑制する効果が確かめられております。ステロイド外用によりある程度まで湿疹が落ち着いた維持期にステロイド外用薬の使用量の漸減・再発防止を目的に使用します。これまでの治療で効果が不十分だった中等症以上の患者様には、高い治療効果が示された注射薬(デュピクセント®︎)が適応になります。
治療の目標は、「症状がないか、あっても軽微で日常生活に支障がなく薬物療法もあまり必要としない」あるいは「軽微な症状は存在するが急性に悪化することはまれで、悪化しても遷延しない」状態を目指します。
アトピー性皮膚炎は、慢性に経過する疾患ですが、「適切な治療によって症状がコントロールされた状態に維持されると寛解も期待される」疾患です。治療目標が長く維持されるようになると、薬物療法が不要になることが期待できる疾患でもあります。
食物アレルギー
食物によってアレルギー反応を起こす疾患です。卵、乳、小麦、大豆、ピーナッツ・ナッツ類、果物など原因になる食物は様々です。乳幼児早期の湿疹から経皮感作されて発症することがわかっています。軽度の場合には口腔内の違和感程度ですが、顔や粘膜の赤み・腫れ、嘔吐・下痢、発疹、咳、声がれ、さらには呼吸困難・顔面蒼白・血圧低下などの重篤な症状を起こすこともあります(アナフィラキシーショック)。
予防は、乳児期早期からの皮膚のケアによりアレルゲンに感作されないことが大切です。
治療は、症状の重症度や検査値レベルにより異なります。
気管支喘息
気道の慢性炎症を特徴とし、発作性に起こる気道の狭窄によって、咳、喘鳴(ぜんめい:ヒューヒュー・ゼイゼイという特徴的な呼吸)、呼吸困難を繰り返す疾患です。慢性の気道炎症により気道過敏性が亢進し、炎症のある気道がけいれん・狭窄することで生じ、小児においても気道の不可逆的な構造変化(リモデリングremodelling)が起こることがわかっています。発症には、特定の遺伝因子(血縁者に気管支喘息の方がいる等)と環境因子(アレルギー反応、感染症、運動、抗原・煙・冷たい空気など)が相互に作用し合って関与すると考えられています。乳幼児喘息の診断目安は「3回以上繰り返す呼気性喘鳴」です。
治療は、気道の慢性炎症を落ち着かせることが根本的な目的になります。そのための内服薬、吸入薬を組み合わせて行われます。発作時には気管支拡張薬(内服、貼付剤、吸入)が併用されます。気道のリモデリングを防ぐためには、炎症を起こさせない長期管理が大切です。
小児気管支喘息
乳幼児期から学童期にかけて、いくつかのタイプに分類されます。
乳幼児期は、
- 一過性初期喘鳴transient early wheezer(就学前に治癒)
- IgE関連喘息(アレルゲン誘発性/アトピー型喘息)※
- 非IgE関連喘息(ウィルス誘発性喘息など)
に分類されます。
学童期は、
アトピー型喘息(学童期の80〜90%)
吸入アレルゲンに対する特異的IgE抗体が検出されるタイプ
アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎を合併する場合があります。
非アトピー型喘息
明確なアレルギー反応を確認できないタイプ
ウイルスや細菌による感染症、運動、冷たい空気、ストレスなどによる刺激をきっかけに発症することがあります。
に分けられます。
乳幼児期②の一部は寛解しますが、多くは学童期以降も継続して認められます。乳児期③も同様ですが、一部は「アトピー型喘息」へ移行します。いずれのタイプも基本的な治療は共通していますが、日常生活での注意点が異なります。
※
以下の「乳幼児IgE関連喘息の診断に有用な所見」(小児気管支喘息治療・管理ガイドラインJPGL)を満たすタイプ。
- 両親の少なくともどちらかに医師に診断された喘息(既往を含む)がある
- 患児に医師により診断されたアトピー性皮膚炎(既往を含む)がある
- 患児に吸入アレルゲンに対する特異的IgE抗体が検出される
- 家族や患児に高IgE血症が存在する
- 喀痰中に好酸球やクレオラ体(剥離した気道上皮が一塊となって観察されたものが存在する
- 気道感染がないと思われる時に呼気性喘鳴を来したことがある
蕁麻疹(じんましん)
突然、皮膚に境界のはっきりした円形(楕円形)〜地図状のわずかに隆起した膨疹や発赤ができ、激しいかゆみを伴います。短時間(24時間以内、多くは数時間)で消失し、痕跡を残しません。7割が原因不明の特発性蕁麻疹です。
自然軽快することが多い一方で、原因不明の中にはアレルギー反応の初期症状である可能性もあり、次第にアナフィラキシーへ進行するリスクを考える必要があります。
また、体調などによっては一時的に慢性化し、数ヶ月間持続することがあります。強いかゆみは子どもにとって大きなストレスであるとともに、掻き壊すことで皮膚のバリア機能が低下し、他の皮膚疾患の発症リスクにもなります。
痒みに対する応急処置は、冷却が最も効果的です。すぐに受診できない場合は、保冷剤などで冷やしてあげると落ち着きます。
治療としては、抗ヒスタミン薬の内服が有効です。重症の場合にはステロイドの内服を併用することもあります。ステロイド軟膏の外用は、蕁麻疹が体内からの反応であることから一般的には無効ですが、皮膚の状態によっては併用することもあります。
蕁麻疹が拡大傾向、あるいは長時間続いて激しく痒がっている場合は、アナフィラキシーに進行するリスクを考え、速やかに受診するようにしましょう。